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「奇跡の営業所」(森川滋之、きこ書房)

営業の仕事を嫌がる人は、案外多いのかもしれません。
自分も営業の仕事は、あまり好きではありませんでした。
迷惑がられたり、断られたりするのは、確かにいい気持はしませんよね。

相手の立場に立ってみれば、新規の営業は基本的に迷惑だと気づきます。
でも、それを意識して営業をすれば、励まされたり、歓迎されたり・・・。
そんなこともあります。

「奇跡の営業所」(きこ書房)は、実話だそうです。
とてもいい話だと感じる一方で、やはり成果を残すのは簡単ではないと感じました。

素人集団の寄せ集めが、あっという間に全国で百か所ある営業所の1位になる。
話としては簡単に聞こえますが、本を読んだから誰にでも明日からこのような成果を残せるわけではない。
結果を出すために行動するのは人間ですが、その人間の核となるもの、すなわち人間性を作るのは一朝一夕にはいかない
そう感じるからです。

本書の主人公のモデルは、吉見範一さん。

「こんな調子で今月は目標を達成できるのか」
まるで「お前は無能だ」と決め付けているかのような冷たく突き放した口調。
そんな小銭集めの競争心だけの営業は長続きしないといいます。

お客さまのお役に立てるということが実感できたときに、とても自然に思考回路のスイッチが切り替わり、何かが大きく変化し始めた。
自分が人の役に立てると知った瞬間から、たったひとりでも頑張れることを知った

そして、吉見さんは、これは仲間の役に立てるということでも同じだといいます。
その気持ちの強さが、チーム全体の行動となって現れる。

それが全国で1位になることができた原動力なのでしょう。
それは、単なる金勘定や根性論を超えたもっと大きな力なのだと思います。

アネゴは全員の顔を順番に見て、気持ちを落ち着けてから言った。
「ねえ。みんな。意地を見せてよ
私はいくつもの職場を渡り歩いてきたから知ってる。
あんないい所長いないよ
売り上げが上がらなくて怒られた人、この中にいる?
所長のやり方を押し付けられた人もいないでしょ?」


ロバさんが、さかんにうなずいている。
あの人がこんなリアクションをするなんて・・・。
アネゴはすこしびっくりした。


「ロバさんもオタクもマザーもクォーターもここに来るまで、自分が何かを売れるなんて想像もしてなかったと思う。
でも、所長の言う通りにやったら売れた。
すごい人なのよ。
その人が怒りもせず、押し付けもせず、上から言われたことも全部自分で受け止めてる
これにこたえないで、何にこたえるの
お願い、意地を見せて。
みんなでやり遂げようよ


アネゴは自分の声が震えているのに気がついた。
いつの間にか大粒の涙がほほを伝っていた。


「そのあと、マザーさんと近くの喫茶店で作戦会議したんです」
「うん」和人はもはや自分の涙を隠そうともしなかった。


「マザーさん、言いました。
しばらく個人はやめて、別々に会社を回ろうって。
そうでもしないとノルマは達成できないって」
「そうか。マザーが・・・」


「私考えただけで怖いから、一緒に回ってって言いました。
そしたら、怖いのは私も一緒
でも、二人で別々に回った方が確率が高くなるって」
「そうか」


「ホントに怖かった。
最初は、入り口にも行けなかった。
ひざがガクガクするんです。
でも、押さえ付けて何とか入った。
日本語苦手だから、受付の人にあやしがられた。
門前払いっていうの?
それやられました


想像しただけで、和人の目は赤みを増した。
怖かったんだね、ごめんね。
そういうのが精一杯だった。


でも、やって良かった
二十社断られたけど、飯田さん、話聞いてくれた
ねえ、椿森契約できたら、来月も一緒に仕事できますか?
「ぴったりなんだよ、クォーター。
椿森電器の100回線で、今月のノルマをクリアできたんだ。
君のおかげで、営業所は救われたんだ」


緊張の糸が切れたのだろう。
クォーターは、わっと泣き出してしまった。


・・・・・・・


それから二ヶ月後、もう一つの奇跡が起きた。


大企業を専門に営業していた「大口兄弟チーム」が、契約を次々に取ってきて、本当に日本一の営業所になったのだ。
しかも、三カ月連続一位という快挙を。


半年という約束だったが、どうしてもという本部からの引き止めで、和人は、さらに三カ月所長を務めることになった。
そして、十二月末。
和人の任期が終わると同時にマイラインのキャンペーンも終了し、全国の臨時の営業所はすべて正式に解散となった。


そのときに全員からとアネゴが渡してくれたのが、今も和人の部屋の一番いいところに飾ってある。
所せましと寄せ書きがされた二匹の豚を、和人は、元気ややる気がなくなるたびに取り出して見ている。


その後も、みんなからときどき連絡が来る


アネゴからは勤務先が変わるたびに葉書が来る
相変わらず派遣を続けている。
でも、その立場が、心の底から気に入っているのだそうだ。


・・・


マザーの息子はJリーグは無理だったようだが、サッカーの強い大学に推薦で入れた。
マザーはあれから保険の外交をやって、トップクラスの成績を挙げているらしい。


クォーターは通訳の仕事についた。
大会社から依頼が来てもひざが震えなくなったそうだ。


イケメンは本部のコールセンターで仕事を見つけたらしい。
人前に出る仕事のほうが絶対に成功すると思うが、それも人生だろう。


ジンジは、人事部に配属された。
適材適所だと和人はジンジのために喜んだ。
C市営業所のような職場作りをしたいと手紙に書いてあった。


タカシは、全国トップ営業の報酬と歩合を資本金にして会社を設立した。
部下に慕われているらしい
リベンジできたようだ。


ショージは、中堅の商社に就職できたらしい。
髪の毛をきちんと分けた写真が届いたので、最初は誰だか分らなかった。


ロバさんだけが消息が分からない。
でも、チベットにいるのは間違いない。
・・・


-「奇跡の営業所」(森川滋之、きこ書房)

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コメント

お久しぶりです。
面白そうな本ですね。私も一冊買ってみようと思います。ご紹介、ありがとうございました。

投稿: ASAKA.YUTAKA | 2009年9月17日 (木) 10時27分

ASAKA先生

いつもコメントありがとうございます。
かなり熱くなる本だと思います。
読後感よかったです。
また、感想など教えてください。

投稿: Q太郎 | 2009年10月19日 (月) 21時13分

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